アルゼンチン暮らしIROIRO

アルゼンチン在住ライターの日々の想いイロイロ

国際女性デーのデモ行進

去る3月8日、国際女性デーの日に、ムスメと一緒に人生初めて“デモ行進”なるものに参加してきました。今回参加を決めたのは、家族ぐるみで仲良くしている女友達数人が参加の意思を表明していたことと、今年の国際女性デーのデモで掲げられていたテーマが、ムスメを持つ母親としての私にとっても大事なことだったので。

 

f:id:Amanda816:20180502214119j:plain

San Martín広場に集まる参加者

ちなみに、日本でデモ行進はあまり一般的ではありませんが、恐らくヨーロッパでも、こちらラテンアメリカでもそこここでしょっちゅう行われている日常茶飯事な風景です。メキシコ在住の時は毎週なんらかのデモで首都中心のアンヘル像周辺が占拠されたり道路封鎖されたりして、ただでさえ有名なメキシコシティのものすごい交通渋滞が、それこそ目も当てられない状態になっていたのを思い出します。だからこそデモが威力を発揮すると言うことなのでしょう。

 

さて、今年のデモ行進で最も重要だったのは、ちょうど国会で議論されていた妊娠中絶合法化法案を推進すること。つまり、女性が「堕胎」という選択肢を持つことを公的に認めるというものです。これまでアルゼンチンはキリスト教の圧力の下、堕胎は母体が危険に晒されている場合と強姦による妊娠の場合を除き法的に認められておらず、個人の意思で堕胎するには違法で処置をする闇医療にかからなければならないというリスクがありました。

f:id:Amanda816:20180502214711j:plain

子供たちも大勢参加してお祭りのような雰囲気


こうして今、議論が活発化している中でも、アルゼンチン人の現ローマ法王フランシスコがアルゼンチンへ正式に書簡を出し、「命を守って(堕胎を認めるな)」と訴えているように、日本とは異なり多くの国では宗教との折り合いがあり、結論に達することが極めて難しい現実があります。

こうした状況について、チリ人作家のイザベル・アジェンデが講演会で意見を述べているビデオを友人がシェアしてくれました。「女性の合法的堕胎を反対している人々の中には、生涯家族も子供も持たない聖職者がいる。彼らに子供を持つこと云々の議論をする資格がそもそもあるのか」とばっさり切り捨てていて、そのあまりにも簡潔にして極めて正論な彼女の語りに、私も思わず頷いてしまいました。その他にもとっても共感できることを色々と語っています。スペイン語の分かる方、ぜひ見てみてください。

 


Conferencia de Isabel Allende

ただし、堕胎がいかなる状況下においても自由になるという新たな“領域”に足を踏み入れた先には、今の日本のように、妊娠中のテストで子供に何らかの疾患の可能性があると診断された結果、ほとんどの妊婦が堕胎を選ぶというような“命の選択”にいつしかたどり着く事になると、意識すべきだろうと個人的には思っています。私たち人類に、その選択肢が果たして与えられるべきなのかどうか、という事です。

 

また、女性であることが原因で殺害される“フェミサイド”(西語ではFemicidio) https://en.m.wikipedia.org/wiki/Femicide の撲滅ももう一つの重要テーマとされ、デモ当日に「私たちは、もうここにはいない、あの子たちの叫びです」と書かれたプラカードを掲げた若い女性グループを目にして、胸の詰まる思いでした。

アルゼンチンでは女性への暴力(主に性暴力)を伴う殺害件数が2008年から2017年までの10年間で2638件に達し、32時間ごとに女性が1人殺されているという計算になるほどフェミサイドは深刻な社会問題です。ヨーロッパ系移民の多いこの国ではフェミニズムも強く、ラテンアメリカ全域に今も根強く残るマチスモ(男尊女卑)への批判と、女性の抱える社会問題、仕事環境、暴力、権利について声を上げるため、この日のデモ行進には70を超える団体が参加しました。

f:id:Amanda816:20180502214916j:plain

「参加して、女性であることを他の女性達と祝うと同時に、君たちの声を社会に聞こえさせて来るといいよ」と仲の良い男友達にも背中を押されての今回のデモ行進参加。リベラルな男性はデモに賛同してくれたり、実際に参加したりもしていましたが、そうでない男性(女性)も社会にはいるわけで、事前に警察に申請して合法的にデモ行進をしていても、道路封鎖にぶつかって怒りのクラクションを鳴らすオジサマたちも見かけました。もちろん、その都度、参加者からは失笑とブーイングの嵐でした。

おっかなびっくりの初体験は、蓋を開けて見たら子供達もたくさんいて、みんなで音楽に合わせて太鼓を叩いたり歌ったり踊ったりと、まるでお祭りのように賑やかで楽しく、子供も大人もそれぞれに考えることの多いひと時となりました。この突き抜けた明るさ、ポジティブな空気、そしてクリエイティブなパフォーマンスが日本のデモにもしもあったなら、もっと違うアプローチになるんじゃないかとも思いました。

志を共にする人達と集うことで感じられるものすごいパワーと勇気は、ムスメにもだいぶ強いインパクトを与えたようで、ちゃんと長時間歩けるか心配している私をよそに、お友達と一緒にガンガン元気に歩き通しました。そして太陽が傾いたころを見計らって二人でバスに乗っておうちに帰りました。満足気なこの表情を見てやってください。

f:id:Amanda816:20180502215253j:plain

最後に、女性が合法的に堕胎という選択肢を持てずに闇医療にかかるリスクを描いたメキシコ映画『EL crimen de padre Amaro (アマロ神父の罪)』は、神の名の下でいかに理不尽で歪んだ現象が生み出されてきたかが分かる作品になっています。背徳の聖職者役を、世界の第一線で活躍するメキシコ人俳優、ガエル・ガルシア・ベルナルが演じているのも見どころです。

https://filmarks.com/movies/3304