アルゼンチン暮らしIROIRO

アルゼンチン在住ライターの日々の想いイロイロ

3ヶ月目の帰宅

先日親しい方たちにはメールでお知らせしましたが、4月22日木曜日、生後3カ月目にして遂にムスメを自宅に連れて帰ることができました。長かった通院、入院生活を経て、家族と共に過ごす我が家での暮らしに、日々感動の連続です!!家の掃除ができることをこんなに幸せに感じたことなんて、今までなかった(笑)!!!

これまでの経緯を簡単にご報告すると、生後すぐ→NEO(乳幼児集中治療室)に1ヶ月半ちょっと(1度目の気管切開手術)→小児病院第4病棟に10日間→小児病院集中治療室に2週間(2度目の気管切開手術)→再び第4病棟に2週間、でした。

中でも大変だったのが、前にも書いた第4病棟での入院生活です。朝7時ごろから看護師による検温等が始まり、その後第4病棟に属する医師数名がばらばらと別々の時間帯で健診に現れます。次いで作業療法士や専門医が現れ、その合間に薬の投与や授乳があり、更に血液採取や各種検査、日によってはカニューレの交換などが入りるため、午前~昼過ぎにかけては文字通り走り回る日々でした。

毎日何かしらの騒動がありバタバタでもありました。というのも、日本の病院では絶対にないことでしょうが、医師が処方箋を書くのを忘れて薬がなかったり、看護師が授乳用の機械のプログラミングを誤って何時間もの間ミルクがムスメの胃に流れっぱなしになったり、逆にミルクの量が全然足りなかったりと、母親の私が常に目を光らせて確認しなければならないことが沢山あったのです。

そして極めつけは、例のベッド問題です。前回確か、とても小さなベビーベッドがあてがわれ、ムスメ共々小さく丸まって寝たと書いたように思うのですが、集中治療室から出て再び第4病棟に戻った時に割り当てられたベビーベッドは、もはや嫌がらせかと思うほど更に小さく、幅70センチ(!)、長さ130センチ(!!)ぐらいの代物。そこに身長170センチ近い私がムスメと一緒に寝るわけですから、どんな姿になるか想像に難くないかと。

これにはさすがに数日で体が悲鳴を上げ始めました。自宅から折りたたみの長椅子を持ち込んで、それで寝てみようと試みましたが、これもまた腰が痛みだして2日ほどで断念。遂には「足を延ばして眠りたい!」という欲求に抗えず、夜中に意識もうろう状態で固く冷たいタイルの床にシーツを敷き、倒れるように寝てしまったこともありました。小児病院では母子入院が原則ですが、一晩だけ病院側に仮病を使って、私は自宅で眠り、ダーリンに病院に残ってもらったりもしました。

第4病棟の責任者に「ベッドか部屋を替えて欲しい」と訴え続けた数日後、NEO時代からの知り合いで同じく第4病棟に入院していたマリアの部屋のベビーベッドが空くということで、ようやくその少し大きめのベッドに移してもらえたのですが、今度はこの移動のおかげで予想もしなかった別の困難を抱えることになってしまいました・・・。これ、とっても辛かったことなので、また別の日に詳しく書きたいと思います。

さて、こんな入院生活を経てようやく漕ぎつけた自宅看護プログラム。そもそもこの自宅看護プログラムとは何かと言うと、スペイン語ではInternacion Domiciliariaと呼ばれ、直訳するなら「自宅入院」。文字通り、自宅にはいるものの、入院しているのと同様の状態でいることです。

そのため、分泌物の吸い取り機やカテーテルで授乳するための機械、大きな酸素のタンクや、”リュック”と呼ばれる携帯用の小型酸素タンクなど一式を借りて、自宅に運び込むことになります。更に医薬品やガーゼ、カテーテルなどの消耗品(果ては粉ミルクまで!)も無料で支給され、さながら我が家の寝室は小さな診療所のようになりました↓。

Internacion domiciliaria

更に医者をはじめとする医療関係者の往診があります。往診の頻度は各患者の必要度に合わせたものとなります。ムスメの場合は医師と看護師の往診が毎日あり、それとは別に作業療法士の方も来てくれていましたが、ムスメの体調がとても良く、私の看護レベルも優良と認められたことで、来週以降は2日に1度の往診となりそうです。

この自宅看護プログラムを開始させるには幾つか条件がありました。それはムスメの順調な回復と、私の看護人としての訓練です。

まずは喉元に穴があいた状態のムスメのお風呂の入れ方、そして薬の投与の仕方(注射器に用意するやり方や、点眼前に目を洗浄する方法、カニューレへのパフの仕方など)、手術用滅菌手袋のはめ方やカニューレから分泌物を吸い取る方法、喉の傷の消毒とガーゼ交換、授乳用機械のプログラミング、授乳用カテーテルの洗浄などを端から学びました。そして最大の難関と言われたのが、カニューレの交換です。

カニューレとは簡単に言うと喉に空いた穴に差し込まれた管で気管に通じています。鼻からの呼吸が難しいムスメはそこから息を吸っているわけですが、内臓に近い場所に直結しているため、その扱いには細心の注意が必要です。バイ菌や埃により深刻な感染症に繋がる恐れがるためです。術後1カ月しか経っていないムスメの場合、万が一装着に失敗すると、喉に開けられた通り道が塞がってしまう恐れもあることから、カニューレ交換は完全滅菌された手術用手袋をはめて迅速に行われます。

自宅看護に移るには、このカニューレ交換を最低でも2度、私の手で行う必要がありました。一度目はベテラン看護婦に装着方法の説明を受け、医師立会いの下震える手で臨みました。二度目は7,8人の医療関係者の前で、最終試験のごとく装着して見せなければなりませんでした。

私は元々、血とか痛そうな傷にとっても弱い人間です。ムスメ誕生直後などは採血するのを見ただけでクラクラしたし、一度目の気管切開手術後はその傷口(カニューレを装着する穴)を直視することなんてまずできませんでした。そんな私が傷口の消毒をしたりガーゼ交換をしたりするようになり、遂にはまともにその“穴”を見るだけでなく、そこにカニューレを差し込むなんてとんでもない芸当ができるとは、本人ですら想像もできなかったことです。

でも人間って本当に慣れの生き物なんですね。そして何より、一日も早く病院を出てムスメ共々家族の待つ我が家に戻りたいぃぃ~!という強い思いがバーンと背中を押してくれたように思います。一度目の交換の時こそ、顔から血の気がすーっと引いて行くのが自分でもわかりましたし、一部記憶が飛んでいる(苦笑)ようにも思いましたが、二度目の時はかなり冷静でした。その二度目の私の装着を見た関係者からは「エクセレント!!」とものすごい評価をしてもらったほど(!)。

こうして晴れて自宅看護プログラムが開始されたのでした。

日中はダーリンが仕事でいないため、自宅に戻った当初は、これまで半分ぐらいは看護師たちがやってくれたことを果たして全て自分一人で出来るだろうかと、かなりナーバスになりました。それでも1週間が経つ頃には、ムスメと私の時間割も定まり、薬の投与や授乳の機械操作にも慣れ、今ではこうしてパソコンの前に座る余裕もできました。ムスメが割とまとまった時間ぐっすり寝てくれることにも助けられています。

ムスメを寝かしつけた後は、気になっていた場所を徹底的に掃除したり、箪笥の中を冬物の洋服に入れ替えたり、ベッドカバーなどの大物を洗濯して屋上いっぱいに干したり、荒れ放題になっていた鉢植えを整えてたっぷり水をやったりと、この3ヶ月間放置されていた家もこの一週間でだいぶ元の姿を取り戻しました。

そんな合間に屋上に上り、美しい秋晴れの高い青空を眺め、暑くも寒くもない気持ちのいい秋風に吹かれていると、このなんてことのない日常の素晴らしさと、我が家で過ごす時間の心地良さに叫びたくなるぐらいです。今までこんな”日常”の良さを認識したことなんてなかった。自分が普通に持っていたものの価値に気付かなかった。でも、ここしばらく失われていた”生活”を取り戻した今、そのありがたみが胸に染みいるようです。ああ、自宅万歳!ありふれた日常万歳!!

ダーリンはと言えば、毎日夕方6時半頃でれでれとした顔をして仕事から戻り、ムスメの寝ている部屋へもう直行です。「パピーが帰ったよお。パパの美人ちゃんはどこかなあ」とか言いながら。本当にこの人はパパになるために生まれてきたんだな、とつくづく思います。おむつ替えとか大好きで、さっき替えたばっかりよ、といくら私が言ってもさっさと替えてしまいます。週末セドリックが来ると、子供二人を両脇に抱えて本当に幸せそう!

そのセドリックはと言えば、まだまだ赤ちゃんが家にいることに慣れず、相変わらず甲高い声で叫んではムスメを起こし、私を怒らせていますが、小さな妹の寝顔をちょこちょこ見に行っては、こそっと頭を撫でて照れくさそうな顔をしています。先日ムスメより1ヶ月年上の赤ちゃんを連れて友人夫婦が遊びに来た時には、そのパンパースのコマーシャルばりの可愛いフリーダちゃんよりも「妹ちゃんの方が可愛い」と力強く主張していました。いや・・・ムスメは可愛さのスタンダードとはかけ離れた、かなり特異な顔立ちをしているんですけどね(笑)。やはり兄としての愛なのでしょうか。

そして我が家の猫君。呼吸に問題のあるムスメと猫、最悪のコンビネーションと言われた共同生活がどんなことになるのかかなり心配していましたが、ふたを開けてみたら猫君はとてもお行儀良く、ムスメに全く近寄らないどころか、ムスメの物にも触ったり、登ったり、ちょっかいを出したりすることが一切ありませんでした。まるで全ての事情を分かっているかのように大人しく、私の顔を見上げては「心配しなさんな」と言わんばかりです。猫も14歳にもなると分別がある?のかな。

こうしていよいよ始まった4人+1匹暮らし。この幸せを記念して、ブログのタイトルも変えました!!