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アルゼンチン在住ライターの日々の想いイロイロ

おててのはなし

少し急な話しですが、ムスメの次の手術が決まりました。

5月29日、指の切り離し手術の第1回目を行うこととなりました。場所はブエノスのガラハム病院ではなく、私たちの住むR市の公立病院です。

毎度のことではありますが、今回も手術時期と執刀医、そして手術場所を巡ってダーリン共々散々頭を悩ませ、ようやく数日前この結論にたどり着きました。

この話の発端は遡ること3ヶ月。今年2月1日にガラハムへ同手術の相談へ行ったところ、2012年の手術室の空きは無し、と無下に追い返されたことはいつかお話ししたとおりです。確かに指の手術は急を要することではないし、来年まで待ってもいいかと一時は考えましたが、ガラハムの執刀医となる予定だったG先生との会話を冷静に思い返してみると、、「今年の空きはなし。12月にまた来て。その時に来年の話をしよう」という極めて曖昧なもの。

これだと来年の何月に手術してもらえるのかも分からず、しかももしムスメがまた当日熱を出したりしたら、振り替えてもらえる日は2014年になっちゃうかも(!?)、という疑問が沸きます。指の切り離し手術は一度に全てをやるわけにはいかず、何度かに分けて行われるため、ガラハムでの手術を考えた場合、いつ全てが終わるのかちょっと先が見えない怖さがありました。

ムスメの場合は数年後に顔面骨延長の手術&治療も控えているため、指の手術が押せ押せになった場合、これら他の治療と重なり、更に後回し・・・なんてことにもなりかねないため、ガラハム以外の他のオプションを探してみようとダーリンと決めました。

そこで以前長らくお世話になったR市の公立病院へ、形成外科の責任者であるT先生に診てもらいに行きました。このT先生、以前からそのお名前は多くの方に聞かされていたこと、また、ガラハムの形成外科医からも一度推薦されたこと、更にムスメが乳児だったころ一度診ていただいたことがあったため、R市で手術をするならT先生にと考えていたのです。

T先生曰く、

「合指症はアペールのお子さんに限らず多くの患者さんに見られるもので、手術自体は20年前からやっているので問題ない。奇形は成長と共に進むものなので、一般的には早めに手術してあげたほうが良い」と。

しかも「本格的に冬の始まる前の5月に手術の予定を入れてあげられる」と言われて、急な予定日の提案にどきりとすると同時に、”今年中に指を何本か自由にしてあげられる”という事実に喜びを隠せなかったり、なんとも複雑な気持ちになりました。

さて、ここからが悩みの始まりです。

ガラハムにしろR市の公立病院にしろ、どちらのオプションにもメリットデメリットがあったからです。

ガラハムのメリットは、アペールの合指症の手術に関して圧倒的に経験値が高いこと、そしてデメリットは先の見通しが立ちにくいこと、膨大な患者を抱えているためどこか”工場”っぽく個別対応してくれないこと。

R市公立病院のメリットは早期に手術してもらえること、移動が少なく家族全員にとって負担が軽いこと、比較的丁寧な対応をしてもらえること。そしてデメリットは、合指症の手術経験はあるもののアペール症の手術経験はあまりないこと。

こうして比較した結果、R市公立病院の方がメリットは多いのですが、私はやはりアペールの子を多く診ているガラハムで手術すべきではないかと思い悩み、そんな議論もダーリンと散々しました。ムスメをよく知っている小児科のお医者さんや、赤ちゃんの時から診てくれている呼吸器系の専門医、外科医など何人ものお医者さんにも相談してみました。そしてほとんどの医師達が「合指症の手術ならここでもできる、T先生なら大丈夫」と答えたにも関わらず、それでも決めきれないでいたところ、決定打となったのはガラハムのD先生からのメールでした。

昨年の頭蓋骨手術の執刀医だったエマ先生にメールで事情を伝えたところ、2月に会った例のD先生に問い合わせてくれたようで、D先生本人からメールが来たのです。最初は、R市公立病院のT先生が私たちに説明してくれた手術内容はどんなものだったか、という問い合わせでした。内容を説明したところ、2度目のメールにはもう少し詳細な内容の指示が書かれており、3度目のメールではR市での手術を勧めるとありました。

曰く、「僕があなたたちだったら、きっとR市で手術をするだろう。T先生も手術できると判断したからこそ予定日を組んだのだろうし、もしできない手術であればガラハムにデリバリーしただろう。知っての通りガラハム病院は関係者のストライキも多く、手術室は満員状態、もし予定を組んでも当日何らかの事情でキャンセルになった場合はいつ手術できるか分からないのが現状。R市に手術ができる医師がいるのならそれにこしたことはない」。

患者が溢れかえるガラハム病院で日々手術に追われるD先生が、ありふれたケースであるムスメの指の手術に当初からあまり関心がなかったというのは事実だと思います。だからこそのこの返事なのか、それとも率直に現実を伝えてくれているのか判断が難しいところでしたが、どちらにせよ、早期の予定日を組んで意欲を見せてくれたR市のT先生にお願いした方がいいのかな、と思わされる内容であったことは間違いありません。

さて、アペール症の合指症には様々なタイプがあります。最も重度なタイプになると、5本の指が全てくっついていて、見た目も花のつぼみのようにまあるくつぼまっています。

ムスメは顔面骨や頭蓋骨の奇形が激しく、そのため呼吸の問題もあって気管カニューレまでつけ、更に肘関節の癒着等もある重度のケースではありますが、、幸い指に関しては比較的軽度な方で、親指は完全に離れていて、小指も皮膚の部分がくっついているだけ。とは言え、部分的に皮膚の移植も必要ですし、決して単純な手術と言うわけではありません。

1度目の手術では小指と人差し指を切り離し、90度外に曲がっている親指の第1関節の骨を立ち上げるそうです。人差し指には皮膚の移植が必要になります。所要時間は約2時間ほど。

2度目の手術で切り離す薬指と中指については、指の先端で骨まで癒着しているので、骨を切断して切り離し、更に皮膚移植が必要になります。1度目と2度目の手術の間隔は患者さんの回復にもよるそうで、今のところ2度目がいつになるかは分かりません。

指を5本に分けるには、それぞれの指に神経と血管も分けてあげないといけないため、実際に5本に分けられるか、はたまた4本になるかは手術を始めてみないと分からないのだそうです(日本でもそうなんでしょうか??)。

また、こうした手術を経て無事5本指になったとしても、健常児と同じような指にはやはりなりません。アペール症児の指には生まれつき第2関節がないため、指は根元から曲げて物をつかむ感じになりますし、1本1本の指もコロンと太くなるのが一般的のようです。

ムスメがこれまでに受けてきた2度の頭蓋骨の手術(7時間)と比べれは所要時間も短く、命に関わる手術ではないという点においてだいぶ精神的には楽・・・と思っていましたが、こうして詳細を知れば知るほど、また痛い思いをしないとならないムスメが可哀想で、私の気持ちもどうしても沈みがちになってしまいます。

最近とても活発で保育園もリハビリも大好きなこの子が、術後しばらくの間両手包帯ぐるぐる巻きで何もできない生活に果して耐えられるのか、という心配もあります。最後の手術の時にはまだまだ赤ちゃんっぽかったムスメも、今ではすっかり女の子。色々なことが理解できるようになった今、今回は手術や痛みに対する感覚もだいぶ違うはずです。手術前にはきちんと説明してあげないとな・・・。

私個人としても、昨年の頭蓋骨手術以降、病院や手術室や麻酔や消毒といったことから精神的にも物理的にも開放されて、かなり穏やかでのんびりした生活を家族共々過ごしてきたので、1ヵ月後の手術に向けてムスメの健康管理も含め、少し気持ちを引き締めないとなりません。

ふ~。

再び臨戦態勢、というところでしょうか。

母さん、ちと気合を入れないとだわ。

手術を決めて以来、毎日、毎晩、ムスメのミトンのようなおててをぎゅうっと握りしめながら、「この可愛らしいおててともバイバイしないといけないのか~」と寂しい気持ちでいっぱいの私。90度に曲がった短い親指も、ひらひらとちょうちょのように優雅に動くくっついた4本指も全て、これまで愛しい大好きなムスメの一部だったのになぁ・・・。

それでも、良くなるための治療や手術があるだけ、ムスメは幸せなのだと思う。治療法がない障害を持っているお子さん達も沢山いるのですから。

痛いこと、身代わりになってあげられないけど、ずっと傍にいて抱きしめてあげるから、一緒にガンバロウね。