アルゼンチン暮らしIROIRO

アルゼンチン在住ライターの日々の想いイロイロ

タイルの話し

とってもご無沙汰しています。ムスメの学校が始まり、これで私の自由時間も確保できる!と期待していたものの、蓋を開けてみたらぜーんぜん。度重なるスト、祝日の嵐、ムスメの風邪、教員の会議などで、平均したら週3日ぐらいしか学校に行けていない気が、、、!!更に年明けからムスメの福利厚生関係(リハビリ、送迎車、学校の付き添いなど)の手続きに追われていること、入学に伴う必要品の購入、ムスメの検査健診、私の定期健診などもあり、毎日のように方々走り回っていてブログの更新ができず、気がついたらスポンサーサイトを入れられちゃってました。ふぅ~。

 

でもお陰さまで学校が始まり2ヶ月が過ぎましたが、ムスメはとても楽しそうに通っています。以前から一緒だった双子ちゃんだけでなく、新しいお友達も出来て仲良くしてもらっているようで、母としても嬉しい限りです。今週月曜にはブラジルから帰ってきたマルーちゃんも加わり、ますます上機嫌。クラスメートは全部で16人と、小ぢんまりしていて穏やかな、とっても素敵なグループに巡り合えたことを心から感謝しています。

 

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カフェテリアにてマルーちゃんと戯れるムスメの図。嬉しそう!

 

日本は今ごろ暖かな春の陽気でしょうが、こちら南米には冬将軍がやって来ました。気持ちの良かった秋晴れの日々はあっという間に過ぎ去り、キーンと冷えた朝の空気は完全にもう冬の匂い。昨年は半年間日本に帰国していた関係で、1年中夏という不思議な年でしたが、今年はその逆。これから始まる南米の冬の後には日本の冬が待っているという、1年中冬の年となる予定です。覚悟しておかなくちゃ、、、!!

 

そんな長い冬に備えて、今年もムスメのカーディガンを編み始めました。色はちょっと明るいレンガ色で暖かい感じ。アラン模様を入れて、もこもことした可愛らしい仕上がりになる予定です。

 

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なんて、近況報告を書いているとまた長くなっちゃうので、今日の本題を、、、。

 

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突然ですが、実はタイルが大好きです。特にスペイン、メキシコ風の絵付けもの、モロッコや中東の細かい柄のものなど、エキゾチックな雰囲気のタイルに胸がトキメキます。私がタイルに目覚めたのは、タイルだけでなく陶器一般が素敵なメキシコ在住の頃ですが、遡れば高校時代に作った自分用の本棚にもメキシカンタイルを貼り付けていたので、その頃から既に気になる存在だったのかもしれません。

 

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さて、メキシコでタイルといえばメキシコシティの『タイルの家(casa de azulejos)』が有名ですが、タイルの街といえば何と言ってもプエブラ(Puebla)です。メキシコシティから車で2時間とアクセスもよいプエブラ州都プエブラ市は、その街の美しさから数々の映画が撮影された場所でもあり、中心部の歴史地区は1987年にユネスコ世界文化遺産にも登録されています。多くの建物がタイルに包まれたアート作品のようなこの街では、小道を散策していても至る所に現れるディティールにぞくぞくします。

 

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”タイルの家”。今ではメキシコの百貨店サンボーンズの本店になっています。

 

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プエブラの町並み。

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至る所に大小様々なタイルがびっしり。

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素焼きのタイルとコバルトブルーのコンビネーションも素敵。

 

プエブラではまた、スペイン統治時代に根付いたスペインのタラベラ焼きが今も盛んに作られており、中でも1824年に創業された老舗工房ウリアルテ(Uriarte)の焼き物は世界中の陶芸ファンを惹きつけて止まない魅力に満ちています。

 

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ウリアルテの入り口にあるタイルの看板と店内の装飾。        

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アンティークなキッチンなども展示されていて見ごたえあります。   

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陶芸ファンでなくとも、プエブラに行かれるなら必見の場所です。メキシコが存分に感じられるので、絶対にお勧め。

 

タラベラ焼きは一つ一つ手で絵付けをしていくもので、土をこねてから完成までに半年はかかると言われており、お値段も半端じゃありません。私もいつか憧れのタラベラ焼きを一つは手元に、、!!と勇んでプエブラへ赴きましたが、流石にウリアルテのものには手が出せず、市内のお店でとことん値切って買ったこちらのプレートが今のところ唯一のタラベラです。

 

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「ようこそ」と書かれているので、我が家の玄関に飾ってあります。

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そんな私のタイル熱が復活したのは昨年11月、ムスメのお友達マルーちゃんが遊びに来てくれた時のこと。ブラジルに長く住んでいたマルーちゃんのママ、フラビアと意気投合してお喋りに花を咲かせていたところ、なんと偶然フラビアも大のタイル好きと判明!そう、スペインに統治されたことでスペインタイルが流れ込んだメキシコ同様、ブラジルもポルトガル統治時代に受け継がれたポルトガルタイルが街に溢れていて、魅了されたのだそう。ナルホド!

 

お互いに、これまでタイル好きな人と出会ったことがなかったため大興奮で、撮りためていたタイルの写真などを見せ合うことに(←マニアック。笑)。思い返せばいつの時代か、ポルトガルに渡ってタイルの絵付け師になりたいと夢想したこともある私としては、運命の出会いかと思ってしまいました。この日、フラビアからタイルの絵付け技術の一つとしてCuerda Seca(クエルダ・セカ(”乾いた綱”の意)という技法があると教えてもらい、二人して習いたいねーと盛り上がって工房などを探しまくったのですが、地方都市であるR市にはCuerda Secaを教えてくれるような場所はなく、、、そうこうしているうちにフラビアは再び仕事でブラジルへと旅立って行ったのでした。

 

ところが、3月末に友人Mから「Cuerda Secaのコースを見つけたよ!」と朗報が!!fbで告知されているものを見つけて知らせてくれたのですが、ブエノスアイレスから先生がやってきてR市で二日間の集中コースを開催するとのこと。ちょうどイースターの休日中で、1日目はダーリンがムスメを見てくれるので問題なし。二日目もダーリンは仕事でしたが、ルーカスが家に来てくれることになり、なんとか参加に漕ぎ着けることができました。感激〜!!

 

思えば、ムスメが生まれて以来、子供を誰かに見てもらって自分のしたいことをしたことなんてなかったもので、2日間も自分のために時間を使えるという事実がまず信じられませんでした(涙)。バンザーイ!!!

 

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このコース、受講生は私を含めて7人でしたが、他にも主催者のアーティスト、カメラマン、開催場所となったお宅のオーナーさんなど、総勢12名でワイワイと賑やかでした。先生はブエノスアイレスからいらしたAnitaとRosa。既に高齢なお二人でしたが(Anitaはなんと74歳!)、バイタリティーは若者並みでびっくり。国内だけでなく、ウルグアイなどでも壁画製作などを手がけていて、バリバリの現役だそうです。

 

そもそもCuerdaSecaとは何か。調べてみたところ、日本語ではWikipediaもないぐらいでした(汗)。私の拙い知識で少しご説明してみると、、、

 

セラミックの絵付け技法の一つで、二酸化マンガンと透明の釉薬、テレビン油などを混ぜ合わせた黒い油で柄を縁取ることで、隣り合わせの色同士が混ざり合わずに模様が描き出せ、焼き上がると表面に凹凸のあるレリーフとなります。

 

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デザイン下書きはこんな感じ。これをタイル一枚一枚にカーボン紙を敷いて写していきます。

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ラインを黒いインクをつけた筆でなぞって絵付けをしていきます。

 

この技法はイスラム暦の初期にイランで既に用いられており、アラブ人がスペイン国内に打ち建てたオメヤ王国時代にスペインでも広く知られるようになったようです。その後、5世紀半ば以降にはアンダルシアで大きく発展し、6世紀の終わりから7世紀初頭にかけてマグレブ地域(モロッコ、チュニジア、モーリタリア、西サハラ、リビアなど)の国々で盛んに使われるようになったそうです。

 

さて、今回のクラスでは各自4枚のタイルを渡され、自由に好きなデザインで絵付けをしました。私は4枚合わせると一つの柄になるようなデザインにしましたが、一枚一枚異なる絵柄にした方もいて、出来上がりはバラエティーに富んだものでした。参加者のほとんどが何かしらの作り手さんだったこともあり、やりたい事がはっきりしていたと言う印象です。

 

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まずは下地の白、それから緑というように、順に釉薬を混ぜて用意し、色づけしていきます。

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出来上がりはこんな感じ。ポイントは釉薬を盛り上がるぐらい多めに乗せること。

 

初日は朝9時から午後6時までびっちり絵付け。この日の夜には窯に入れなければならなかったので、みんな持参したお弁当にも手を出さずに黙々と作業。こんなに長時間何かに集中したことなんて久しぶりで、途中で疲れて緊張が途切れてくると手が震え、ラインが上手く引けなかったり、色がはみ出してしまったり。夕方、終わった時には自分でもビックリするほど、全身ぐったり疲れていました。

 

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作業風景。

 

今回、開催場所が偶然にも私の家から8ブロックの距離だったので、てくてくと歩いて家路に着いた時には、心地良い疲労感と精神的充足感に満ちていました。あー、物作りって良いなぁ〜。

 

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二日目は朝から講義で、技法についての復習や質疑応答などがありました。また、先生方が壁画のプロだったこともあり、壁画製作についてのお話などもありました。この間、一方では窯から焼き上がったタイルを搬出していたわけですが、その作業に相当手間取り、会話のネタが尽きたクラス内はだらりとした世間話タイムに。

 

ここら辺がすっごくアルゼンチンだなーと思いましたね(笑)。とにかく全然段取りが出来てない!!「2日間、午前9時から午後6時までの集中コース」と謳って、参加費も100ドルとかなり高かったのに、結局二日目はほとんど何もせず、お茶飲んでいた時間が圧倒的に長かった、、、(爆笑)。しかも誰もそれについて文句も言わなければ不満そうでもない。改めて「ユルイいな〜」と妙に感心してしまいました。

 

結局、お昼も食べずに待つこと数時間。午後3時近くなって作品が到着したものの、蓋を開けてみたら作品全ては焼けなかったことが判明。参加者7人×4枚のタイルが窯に入らなかったそうで、各自4枚中1枚だけをサンプルとして焼いたと手渡されました。ここら辺も主催者側の完全な段取りミスですが、誰も文句は言わず、、、。

 

しかも窯の温度調整が上手くいかなかったようで、全て焼き過ぎ。また、窯内部に上手に収められなかった作品はゆがんで曲がってしまっていたりして、酷い有様に、、、。私の1枚は幸い歪んでこそいませんでしたが、焼き過ぎのため釉薬が黒いラインをまたいで流れてしまっていたり、色も全体的にかなり暗めできれいには出ませんでした。

 

窯で焼いたのは主催者のお姉さんで、先生方には責任はなかったのですが、Anitaは「こんな結果は望んでいなかった」とオンオンと声を上げて泣き出してしまうし、逆に参加者の私たちの方が気を使って慰めたり。主催者はそんな中、参加証書をささっと配り、みんなそれを手にしてにっこり記念撮影(笑)。

 

こんな行き当たりばったりのクラス運営でも誰もが機嫌良く去っていく、、、ああ、アルゼンチンってなんてストレスのない素晴らしい国なんだろう、とみんなの寛容さに思わず感嘆のため息が漏れた私なのでした。

 

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さて、開催期間中に焼いてもらえなかった残りの3枚はと言うと、主催者が順次焼いていました。私の場合は4枚一組の柄なので、Anitaからは「最初に焼いて焼きすぎた一枚はもう使えないから、もう一度1枚だけ絵付けし直して、4枚一緒に焼いてもらいなさい」と言われていたのですが、問い合わせたところ既に残りの3枚は焼かれてしまった後でした(ガーン!)。

 

後日受け取りに行ってみたところ、残り3枚も別々の窯で焼いたそうで(なぜ???)、1枚ずつ異なる仕上がりになっていました。4枚合わせてみるとこんな感じ↓。

 

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よぉく見ると、一枚一枚大きさも色も違います(号泣)。

右下のタイルが一番綺麗に焼けているのが分かるでしょうか?青の色などが鮮やかです。

 

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左のが一番綺麗に焼けたもの。右のは高温過ぎて色が暗く、黄色い釉薬には気泡が発生しています。

 

4枚で一つの柄として壁に飾りたいと思っていましたが、まあ今回は諦めるしかなさそうです。このイベントの主催者であるAdrianaも陶芸家だったのですが、この結果にはいたく責任を感じているそうで、もう一度新しい4枚のタイルに絵付けして焼き直すことを提案されました。私にとっては良い復習にもなるし是非やってみたいので、なんとか時間をやりくりしなっくちゃと思っています。次はどんな柄にしようかな~♪

 

こうして、非常に段取りの悪いコース運営ではありましたが、最後の最後では人情で帳尻が合うところがアルゼンチンの良いところ。何はともあれ、楽しかった!!

 

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陶芸は、私が幼い頃母にくっついてお教室に連れて行ってもらったぐらいしか経験がありませんでしたが、今回このクラスに参加して、なんて奥の深い芸術なんだろうと改めて思いました。土、釉薬、窯の状態でいかようにも変化するし、窯から取り出して見るまではどんな結果になっているのか分からない。

 

すごく抽象的で、直接手でコネたり絵付けしたりするからダイレクトなアプローチかと思いきや、工程の最終段階は窯に委ねるしかないところは全然ダイレクトじゃなくて、不思議なものだなぁと。計算づくではいかない、偶発的な効果が魅力的だったりするところに陶芸の真骨頂はあり、人々が魅了されるのかもしれません。

 

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コース終了後にAdriana, Rosa, Anitaと。