アルゼンチン暮らしIROIRO

アルゼンチン在住ライターの日々の想いイロイロ

魔法の夜と悩める青春時代

先日、本当に久しぶりにライブを見に行ってきました。Lisandro Aristimuño というパタゴニア出身の若いアルゼンチン人のアーティストでしたが、パフォーマンスも音楽もとっても良くて、感動してボロボロ泣いて帰ってきました。

 

 

不思議なもので、ライブを見ている間にものすごく沢山のことを感じて思い出して考えました。そもそもこんな風に音楽を聴きに夜一人で出かけるなんて贅沢ができたのは数年ぶりだったし、ムスメのこと以外で感動して泣いたことなんてこの6年間ほとんどなかったかもしれません。

 

音楽を聞きながら、これまで忘れていたことや、心の奥深くに仕舞い込んでいたことが驚くほど鮮明に頭をよぎって、感情の激流が押し寄せて自分でもびっくりしましたが、それはきっと若い頃ライブハウスによく行っていたことと、この夜の経験が重なったからだったのだと後から気がつきました。

 

 

 

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都内のライブハウスによく通っていたのは、20歳前後のこと。その当時の私は都内の某美大に通う大学生で、ベースを弾く彼がいて、周りには音楽をやっている人がとても多かった。ベルボトムをはき、古着の皮のコートにかかとの分厚いブーツ、髪の毛はセシルカットでベリーショートにしたり、アフロにしたり、シャギーのストレートにしたりとどこまでもヒッピーで、くわえ煙草でトム・ウェイツを聞きながらポンコツを運転していたものです。あ〜、若かった〜(笑)!

 

将来のビジョンも見えなくて、精神的にも不安定で、大してお金もなかった時代で、大学卒業したての彼と一緒に狭いアパートで料理をしたり、映画を見たり、議論したり、猫と遊んだり、散歩する日々でした。当時、新宿のジャズバーでアルバイトをしていた彼が、お店でいつも作ってくれたカシスオレンジや、かけてくれたケニー・ドーハムの曲まで今でもはっきりと思い出せます。80年代の若者らしく、お金が貯まるとバックパックを背負ってアジアを放浪したりして、先の見えない苦しい青春時代だと感じていましたが、今振り返るとどの思い出もキラキラ輝いている気がします。そう、今は亡き愛猫のコゲも、この頃彼のアパートに現れたのがきっかけで、その後10数年間の人生を共にすることになったのでした。

 

 

改めて振り返ると、あの時代は、私が大海原に飛び込んで本格的に世界を航海し始める前の、最後のぬくぬくした時間だった気がします。日本の外に飛び出してからもう15年以上経つ今、その間の全ての経験が面白かったし、一個も後悔していないと言えますが、でもそれはやっぱり体を張って闘ってきた年月でもあって、あの新宿で仲間たちとワイワイ過ごした時間は、無邪気にのんびりと楽しかったなぁと懐かしく思い出しました。

 

そんな時代を共有した大事な友人で、昨年の今頃に他界したSのことも、ライブを見ながらずっと考えていました。あの当時の彼女を本当に懐かしく思い、会いたい気持ちでいっぱいになり、一人でボロボロ泣きました。彼女と二人、目一杯背伸びして、尖ってて、カッコつけて、色んなライブやイベントに行ったものです。そして不意に思いました。いつのまに私、こんなに丸くなっちゃったんだろう、こんなに怖がりになっちゃったんだろうって、、、。今ここに彼女がいたなら、二人でそんなお互いの変化について沢山話せたのになぁと、心から彼女を恋しく思い、彼女の不在を痛烈に感じました。

 

 

おかしなもので、ライブが終わる頃には、勢い込んで「ベルボトムを買いに行こう!」なんて思っている自分がいました。なんかこう、忘れていた自分を取り戻そう、原点に戻ろう、という気持ちになったのかな。別に今の自分が嫌だという訳でもないのですが、こういう感情って、過ぎし時代への愛着なのかもしれません。

 

 

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やっぱり、クリエイティブなものに触れて刺激を受けるという経験は、いくつになっても意識してしないとダメですね。すっかり忘れていた感動を再体験し、20年以上も前のことを鮮やかに思い出した魔法の夜でした。

 

悩める青春時代も悪くなかったね、S。