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アルゼンチン在住ライターの日々の想いイロイロ

コロンビアの歌姫 Totó la Momposina

先日、メキシコ人アーティスト、リラ・ダウンズをご紹介しましたが、あれ以来、彼女のインタビューをYoutubeで見たりバイオグラフィーを読んだりして、とても面白いことを沢山発見しました。 アルゼンチンに住み始めて5年。ここの暮らしにすっかり慣れてしまい、メキシコ社会のありようを忘れていたところが多く、リラの生き様やコメントを紐解くことで改めてメキシコという国の特異性や、メキシコで“先住民の血を引く”こと、“女性”であることが2重の十字架となり得る現実を目の当たりにして衝撃を受けています。リラ・ダウンズについてはもう少しじっくり考えてから、また改めてご紹介したいと思いますが、その前にまずこちら。

 

先日このブログでご紹介したミュージックビデオ『Zapata se queda』でリラ・ダウンズと一緒に歌っていた二人の人物が気になって調べたところ、おばちゃんの方はコロンビアを代表するシンガー、Totó la Momposino (トト・ラ・モンポシーナ)で、アコーデオンを弾いていたおじさんの方は、メキシコのミュージシャン「アコーデオンの反逆児」の異名を誇るCelso Piña (セルソ・ピーニャ)であったことが判明しました(ビデオの中でリラが二人を紹介してその名前を叫んでいます)。お二人ともクンビアの御大。リラがクンビアを歌うということで、強力な助っ人として参加した模様。

 

同じ南米大陸で、しかも大好きな友人夫婦が住んでいるにも関わらず、これまでコロンビアってあまり視野に入っていない国でした。でも色々と調べ始めたら、地理的にも歴史的にも多様な文化を持つ南米随一の音楽大国とわかり、がぜん興味が沸いてきました。「大西洋、太平洋、アンデス山脈、アマゾン、大平原と南米でもこれだけそろってる国はないのでは?だから音楽も実に豊富。有名なシンガーは言うまでもなくラテングラミーの常連だけど、彼らの音楽にはすべてコロンビア音楽のエッセンスが入っている」現地に住む友人のコメントです。

 

トト・ラ・モンポシーナ、本名ソニア・バサンタは1940年、カリブ海側に浮かぶモンパス島で生まれたことから「モンパスの女」の意味の”モンポシーナ”と、両親がつけたあだ名の”トト”を芸名とします。音楽一家の4代目に生まれ、母は歌手でダンサー、父はパーカッション奏者。幼いころから歌と踊りを習い、16歳の時に家族と組んだバンドでそのキャリアをスタートさせました。コロンビア国立大学で学んだ後、多くの国際ツアーを経て、1983年に最初のアルバムをフランスで収録しています。

 

人懐こい肝っ玉母さん風の容貌を持つトトですが、実は非常に研究熱心なアーティストでもあり、フランスのソルボンヌ大学、キューバのサンチアゴやハバナの学校などで学び、世界に認められるようになったのは40代後半のこと。1999年のアルバム『Pacantó』ではブラス楽器、パーカッション、弦楽器、葦笛などを配した強力なバンドと共にクンビア、ポロ、ガイタ、ソン、ルンバと言った多様なレパートリーを披露し、コロンビアのトラッド・ルーツ・ミュージックを代表するアーティストとして、また、優れた作曲家としての才能も開花させ、国際的にその名を知らしめました。2002年にはアルバム『Gaitas y Tamboles』でラテングラミー最優秀トラディショナル・トロピカル・アルバムにノミネートされています。

 

トレビアとしては、1983年にコロンビアを代表する作家ガルシア・マルケスがノーベル文学賞を受賞した際、トトの大ファンだったマルケスの要望で受賞式に参加し、歌声を披露したという逸話があります。その貴重な映像を発見。若かりし頃のトト(43歳)が歌う姿がちらっと映っています。 http://www.youtube.com/watch?v=-u6X6MMNy6s

 

現在ではコロンビアの伝統音楽にアフロ・キューバンなどのテイストを加え、新たな息吹を与えた偉大な歌手としてJuanesなどの若手ミューシャン達から尊敬され、世界中にファンを持つ、ワールドミュージックの定番歌手とも言われています。若手の音楽家の育成にも積極的で、リラ・ダンズだけでなく、Calle 13などともコラボレーションをしています※別の機会にご紹介します。

 

探してみたところ、特に凝ったミュージックビデオなどはありませんでしたが、トトのカラっとつき抜けた歌声と、思わず踊りださずにいられない強靭なサウンドだけで充分惹きつけられます。リラのビデオでは彼女の派手な衣装が印象的でしたが、別にあれはリラに影響されたからではなく、普段からかなり強烈なお召し物をまとう方のようで、どの写真を見てもドキッとするほど素敵です。むしろあのビデオの衣装はやや控えめだったかも(笑)。

 

彼女の曲をここで幾つかご紹介します。

気になる方はyoutubeへ。

 

El Pescador

2009年のベストアルバム『20 años de Totó la Momposina』に収録。

 

Margarita

2009年のアルバム『LA BODEGA』のオープニング曲。

 

Pacantó

2002年のアルバム『Pacantó』のタイトル曲。この曲の説明にこうありました。

 

「キューバのソンがコロンビアの逃亡黒人奴隷の隠れ里、サン・バシリオ・デ・パレンケへやってきて、パレンケの人々によってそのリズムが受け継がれ、今も当地に残るアフリカ言語のバントゥでしばし歌われるようになった。」

 

 

調べてみたところ、スペイン人による侵略・植民地時代につれてこられた黒人奴隷達が逃亡し、身を隠したのがこの地であり、現在も3500人の住民を持つ村として存在。閉鎖的な地理条件から英語とアフリカ言語の混ざった独自の言語(パレンケロ)を生み出すと共に、音楽、社会構造、医療、葬儀など独特の文化を維持していることから、ユネスコの無形文化遺産に指定されているそうです。

 

凄惨な歴史の産物と思うと気分は複雑ですが、皮肉なことに侵略行為による文化融合が生み出すエネルギーに満ちたサウンドや数々のアートは、今も世界中で私達を魅了し続けています。それはもしかしたら、人類の深い業にとって神が与えた唯一の慰めなのかもしれません。

 

Totó ls Momposinaの公式サイトはこちら。http://www.totolamomposina.com/

力強いサウンドが聞けます!