アルゼンチン暮らしIROIRO

アルゼンチン在住ライターの日々の想いイロイロ

ムスメ1歳半 母業1年半

ブエノスアイレスへ行く前に、ムスメ1歳半の記録を残しておくことにしました。

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身長84センチ、体重10キロ600グラム。

だいぶ髪も伸びてようやく女の子らしくなりましたが、

また来週丸坊主にされてしまう予定

海賊の剣はお兄ちゃんのを拝借。

この期間の一番大きな成長と言えば、座ってズリズリと動くことができるようになったこと。通常なら1歳未満でハイハイやズリ這いができるのでしょうが、ムスメの場合は肘の固定と肩関節の固さが原因でそもそもハイハイのポーズが取れません。しかも、満1年間殆どの時間を授乳機に繋がれミルクを飲まされていたため、体の筋肉を鍛えるために必要な運動が全くできず、お座りが一人でできるようになったのも生後10カ月ぐらいのことでした。

今日に至るまで、自らの意思で移動するためには歩行器に乗る以外なかったので、「自力で動く」ことができるようになったことはこの子にとって目から鱗の大発見であり、“自由”への第一歩になったことでしょう。

きっかけは我が家のリビングのタイル張りの床。この床とっても冷たいので、真冬のアルゼンチンでは直接座らせないようにしていました(いつもはカーペットの上)。ところがある日偶然座らせてしまったところ、つるつるの床に手をついて押せばズリズリと後方へ動くことができる!と気がついたのでした。

ムスメの顔がその瞬間驚きと喜びにぱっと輝いたのが忘れられません。そこからはもうお尻を突き出してズルズルと一日中動いていましたが、どうも目で見て近づきたいと思っている物体からは遠ざかっているようだ、と気付いた模様。翌日には多少の難儀はありましたが、前にも動けるようになっていました。

それにしても感動です。キッチンに立ち、ムスメに背を向けつつ料理をしている間に、ズリズリと動いて我が子が足元までやって来ている。当たり前のことなのでしょうが、我が家の場合こんな風に「動くムスメ」ってなんだかとっても新鮮で、もうとっても暖かい気持ちになってしまいます。気がつくと椅子をガーガー押していたり、電気のコードを引っ張っていたり、親として心配しないといけない場面なのでしょうが、そんな情景ですら見ていて思わず頬が緩みます。

さて、すっかりアクティブになったムスメの最近のお気に入り遊びはキャッチボールとサッカー(超アルゼンチン人)。キャッチボールは座ったままボールを転がし合いするだけですが、なかなかコントロールがいいし、割と早い球を返しても見事なタイミングでがしっとボールを掴むあたり、実は運動神経いいのかもと思ってしまいます(親バカですか)。

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ニンマリご満悦。

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これ、最近のお気に入りポーズ。

カメラ向けると必ずやります。

サッカーも、まだ一人では歩けないムスメの両手を支えて歩かせてあげてのことですが、大きなサッカーボールのさばき方が相当上手いことにはびっくりです。キックもなかなか強烈だし、これはもう未来のなでしこジャパンなんじゃないかと確信に近いものを感じています(親バカですね)。

それと、とにかくよく踊るようになりました。生後4,5か月ごろからずっと聞いている「うたの絵本」は今でも我が家の大ヒット商品ですが、自分で好きなお歌をかけては、座ったままかなり激しく体を左右に動かして踊ります。あ~もうこの姿が本当に可笑しくて、愛おしくて、どれだけ見ていていも見飽きません。踊って~と催促すると律義に踊ってくれるだけでなく、時にはボールやおもちゃを手に踊ってみせてくれたりするサービス精神には脱帽です。

音に敏感で、かなりの音楽好き。大好きなCDをかけてあげると、動きを止めてじっと音楽に聞き入ります。いつか楽器を習わせてあげたいな~と思うのですが、肘が動かなくてもできる楽器ってなんでしょう?マリンバとか??

さて、これまでは何を聞いても首を横に振って「no no no」とネガティブな回答しかできなかったムスメでした(こちらではネガティビズムと呼ばれ一般的だとか)が、つい1カ月ほど前から「si si si (yes yes yes)」と肯定的な回答ができるようになったことも大きな成長の一つと言えます。

ある日一人で座って遊んでいたムスメが、すごくぎこちなく首を縦にブンブン振って、何やら「si si si」を密かに練習しているらしいのを発見。ホント、そのガクガクした動作の不自然さに、笑っちゃいかんと思いながらも密かに大笑いでした。

その日以来、小出しに「si」と首を振って見せるようになったムスメ。当初は自分でもその動作の意味を計りかねて、試し試しやっていたようですが、最近ではだいぶ正しい使い方ができるようになってきました。で・も・「うんちしたの~?」という問いには常に「si」と答えます。満面の笑みで100%の確信を持ってしきりにうなずきますが、これが実はあんまりあてにならないのがまた笑えます。

でも、欲しいもの、したいことなどはかなり積極的に表現できるようになりました。ボール遊びしたいの?と聞けばコックリとうなずき、ご本読むの?と尋ねるとまたコックリコックリとうなずきます。こういうコミュニケーションが取れるようになったことが本当に感動です。同時に自己主張も激しくなってきましたが・・・。

すっごい本好きは相変わらずで、本さえ与えておけば飽くことなく一人でページをめくって本の世界に没頭しています。絶対に欠かせない寝る前読書も、ムスメが読みたい本を毎晩厳選します(笑)。本の好みには流行りすたれがあり、一時は見向きもしなかった本がある日突然お気に入りに変身して、何度も何度も繰り返し読まされることが多いです。

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お兄ちゃんの宝物、「ドラゴンの本」を見せてもらって

大興奮の図。

最近では、長いこと不動のトップの座を築いてきた「三匹のやぎのがらがらどん」がまさかの降格となり、代わって「だるまちゃんとかみなりちゃん」が上位に浮上してきました(どちらも私の子供時代のお気に入り)。また、「おへそどこ」や「いないいないばあ遊び」のようなしかけ絵本にはまった時期もあります。私的には物語性の高い本の方が読み聞かせていて楽しいのですが。

さて、母業1年半を迎えた私についてもちょっとだけ記録を。

生後1年を過ぎた頃から、ようやくムスメを外に連れて出かけられるようになり、その喜びは計り知れないほど大きかったのですが、同時にそれは私達親子にとって新たな試練との出会いでもありました。

それは、道行く人々の視線や態度。

これまで医療関係者だけに囲まれ、ムスメちゃんムスメちゃんと可愛がってもらってきた私達はある意味温室育ちだったのでしょう。一歩温室から外に出てみると、道ですれ違う人達、特に子供たちの反応の率直さ、残酷さにかなりの衝撃を受けることとなりました。

ムスメをベビーカーに乗せて歩いていて、何度子供たちの集団に囲まれたか分かりません。一度は通り過ぎたものの、すれ違いざまにムスメの顔を見て追いかけてきた子供も何人もいます。遠目でムスメを見るなり、腰に手を当てて道を通せんぼしながら私達を待ちうけていた子もいました(やり過ぎだよ)。

そんな子供たちからはだいたい、「この子どうしたの?」に始まり、「なんでこんな宇宙人みたいな顔してるの?」「指くっついてるけどどうしたの?」「首にくっついているのなあに(気管カニューレのこと)?」という質問を一斉にぶつけられます。当初はこれが辛くて、小学校の登下校時には外に出ないようにしたり、学校の近くは避けて通ったり、行く手に子供の集団を見つけた時には迂回したりしていました。

でも、こんな風に率直に好奇心を持って聞いてくる子供たちの反応はまだ自然なものと納得できます。腹が立ったのは、もう少し大きい10歳以上の近所の子供が、私達が通り過ぎるたびにくすくすと笑ったり、友達同士で目配せをし合ったり、こっそり指を指したり、背後でこそこそと意地悪なことを言ったりしていたことです。

今はまだ嫌な気持ちになるのは私だけで、ムスメを傷つけることはないけれど、近い将来この残酷な反応はムスメが直接受けることになるのだと思うと、それだけで胸がいっぱいになって泣けました。実際、子供たちの集団からやっとのことで逃れた瞬間涙が溢れてきて、近所の仲良しのお店屋さんに飛び込んで泣かせてもらったことも。

あれから半年。

今ではもう他人の視線にうろたえることも、誰かの態度や反応にショックを受けることもなくなりました。なぜなら、そうした異物を見るような視線と出くわす度に、不思議なことに、自分の中である種の誇りのようなものを感じるようになったからです。

ムスメがこれだけ大変な思いをしながら、それでも沢山のことを乗り越えて今日まで元気に育ってくれたこと、そして日々新しいことをやって見せては私達を驚かせてくれていること、それを見て欲しいし自慢したい。そんなムスメは私にとっての正に誇りになったのです。

そう、うちのムスメは「特別」なんですよ、と、不躾な視線を前に堂々と胸を張れる。それが母業1年半の未熟な私なりの成長かもしれません。

そして、私が今こうしていられるのはやっぱりダーリンとセドリックのお陰なのです。

「いつかこうした残酷な反応はムスメが直接受けることになる。しかも一人で立ち向かわないといけない時が沢山ある。どうしよう」とダーリンに話した時、彼に言われました。

「例えばスプーンを掴んで口に運ぶことが、この子の場合どれだけ大変かは僕達が知っている。そんな当たり前のこと一つ一つが、この子の場合は偉大な達成。だから、それを皆で一つ一つ祝ってあげることで、この子が自分の達成したことに誇りを持てるようになることが大事なんじゃないかな」と。

子供たちの反応についても、「好奇心から色々聞いてくるのは自然なこと。怒ることじゃないんだし、変に構えず、きちんと説明してあげれば理解してくれるよ」って。実際、ダーリンはムスメと一緒に人の輪に入っていくのがとても上手です。どこに行っても一斉に注目を集めるムスメですが、そんな子供たち相手にダーリンは陽気におどけてみせ、積極的に話しかけ、気づくと皆がムスメと一緒に遊んでくれたりして、見ていて本当に感心してしまいます。

この、動じないポジティブな態度は、我が家のお兄ちゃんセドリックにも共通しています。一度彼の学校のお友達が我が家に泊まりに来た時のこと。お友達はムスメのことを見るなり硬直し、無言に・・・。でもその後、ダーリンにこっそり「どうしてムスメちゃんはあんな・・・あんな・・・あんな“フランケンシュタイン”(!)みたいな顔しているの?」と尋ねたそうです

そんな話が夕食の席で出て、当時の私はショックを受けて悲しくなり、酷く落ち込みましたが、セドリックはそんな友人の反応も一瞬で笑い飛ばしただけ。もう全く気にしていない姿には頼もしさすら感じました。本人いわく「だってイモウトちゃんは特別なんだから」って。その言葉には、彼の確固としたムスメへの愛情が滲み出ていて、私はどれだけ勇気づけられたか分かりません。

そして後日、ピカ(セドリックのお母さん)からは、学校でムスメのことを持ちだされ、しつこくちょっかいを出されたセドリックが遂に切れ、相手の子供の胸倉をつかんで黙らせたことがあったと聞きました。普段はどちらかというと線の細いセドリックなのに、彼なりにお兄ちゃんとして家族が置かれた新しい環境の中で奮闘していたことを知りました。

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お兄ちゃんといる時が一番楽しそう。

こんなお兄ちゃんとパパで良かったね、ムスメ。

ママもあなたがいつまでもとびきり上機嫌な子でいられるように頑張るよ。