アルゼンチン暮らしIROIRO

アルゼンチン在住ライターの日々の想いイロイロ

食べる、ということ

先日、行きつけの八百屋さんでこんな素敵な物を発見しました。

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そう、梨!

ちなみに、こちらの国で梨と言えば通常コレ↓。

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この梨を日本で”洋梨”、と言うように、日本の梨に似た最初の梨は、ここでは”東洋梨”と呼ばれているそうです。懐かしいその姿が嬉しくて、1キロほど包んでもらい、浮き浮きと自宅に連れて帰りました。

初めてアルゼンチンで出会った”東洋梨”はとても小ぶりで、一つ一つの形も全然揃っていなくて、いかにも”原種”という姿でしたが、お味の方はさっぱりと甘く、東洋梨特有の果汁もたっぷりで、暑い夏の午後、体の熱をすっきりと取ってくれました。

この梨に限らず、こちらで売られているお野菜や果物は、どれもこれも品種改良のほとんどされていない原種ばかりのよう。なので形もいびつだし、お味も大味だったり甘みが足りなかったり、葉物の野菜なんてごつかったり固かったり。

でも時折ふと、お野菜特有の素朴な味をしみじみ感じられることがあったり、果物なども変に甘くなくて懐かしい味がしたりします。もしも今、久しぶりに日本の綺麗に育った果物を見たら、感動すると同時に、なんだかお上品過ぎて気軽に手が出せないかもしれません(笑)。

この夏よく食べたお野菜と言えば、きゅうり、ズッキーニ、赤ピーマン、ルッコラ、カボチャ、ナス、レタス、インゲン、トウモロコシなど。そして日本であまりメジャーではない私の大好物アンティチョークやビーツも、旬の時には沢山食べました。

これら以外にこちらでも手に入るお野菜で日本風なものは、例えば白菜。「アクサイ(スペイン語ではH音を発音しないので)」と言う名前で売られています。白い小さな蕪も時々見つかるので、そんな時は嬉々としてお漬物にします。長ネギや生姜は行きつけの八百屋さんで割りといつでも買えるので大助かり。もやしなんかもお願いすると、わざわざ市場から私のために持ってきてくれます

そう言えば果物にも日本の名前がそのままついているものがあります。それは「カキ(柿)」。白菜にしても柿にしても、今こちらで食べられるのは、きっと遠い日本から渡ってきた移民の方たちが持ってきてくれたお陰なのでしょう。有難いことです!

さて、嚥下に障害があり、これまで口からご飯を食べられなかった我が家のムスメ。実は2ヶ月ほど前に嚥下の検査を受けたところ、前回の結果よりもだいぶ改善されており、飲み込んだものが気道へ入り込むことがなくなっていました。と言うことで、ようやくドクターからも「口から食べる練習を始めてもOK」と指示が出ました。

ムスメの現在の食事がどんなものかと言うと、こんな感じ↓です。

 9:00 ミルク&Nestun 150ml

11;00 ヨーグルト(保育園にて)

13;00 野菜、お肉、ご飯やパスタなどの離乳食 200ml

17:00 果物をFPでがーっとした物 200ml

20:30 野菜、お肉、ご飯やパスタなどの離乳食 200ml

23:00~7:00 高カロリーの液状栄養食 500ml

これまでは日中に食べている量では体重増加にやや無理があったため、夜間の栄養食が追加されてきました。これは胃ろうにチューブをつけて、機械でゆっくりと流して与えます。でも、私的にはそろそろ卒業させてあげたい。基本痩せ型なムスメですが、体重は標準値に入っているし、やっぱり夜通し何かを”食べさせられている”のはあまり自然な姿ではないと思うので・・・。

ムスメの食事事情の何が大変かと言えば、出先などで「お腹減った」と言われても、はいクッキーとかお煎餅ってあげられないところ。どうしても流動食じゃないといけないし、洋服をめくってチューブをつけて注射器で流してあげる必要があるので、どこででも手軽にほいってわけにはいきません。なので予め予定されていないと出かけられないし、いざ出かける時は道具一式&ご飯をしっかり持参する必要があります。

さて、お口で食べる練習を始めたムスメ。親としてはさぞかし喜ぶことだろうと予想していたのですが、蓋を開けてみたら実はそうでもありませんでした。最初の頃は色々な味に慣れず、ちょこっと舐めては嫌々をしたり、口で食べるのが面倒くさそうだったり(!)。途中ですぐにぷいっと他所を向いて、「もう面倒だからお腹に流しちゃってよ」ってな態度

でも改めて考えてみると、ムスメの場合きっと「口から食べる=満腹になる」というシステム自体ぴんと来ていなかったはず。突然色んな味の物を口に入れられて、なんだなんだ?と思っていたことでしょう。

こんな淡白なムスメの反応に変化の兆しが見えてきたのは、保育園に通うようになってから。保育園のおやつの時間、クッキーやヨーグルトを美味しそうにがっつく食べる他の子供たちを見てから「口で食べる」という行為に興味を持つようになったみたいです。付き添いのクラウディアによると、まだ固形物は食べられないムスメですが、保育園ではクッキーを欲しがり、口に入れてはちゅぱちゅぱしているとか(もちろん彼女の本当のおやつはヨーグルトなど)。

我が家でも最近では200mlの離乳食の約4分の1~半分ぐらいは口でしっかり食べられるようになったし、おなかが減った時の食べっぷりが特にいいと言うことは、「口から食べる=満腹になる」ことを理解したということでしょう。更に、自分用のご飯じゃなくて、私たちが食べている物を食べたがるようにもなってきて、1年以上の遅れはあったものの、健常児の自然な成長と同じプロセスをたどっているのがよく分かります。この分だと、胃ろうが外せる日もそう遠くはないかな~、なんて期待に胸膨らませる母なのでした。

でも、ムスメにはまだまだ沢山の課題があります。

新生児の頃からおっぱいや哺乳瓶を”くわえて”、”吸いついて”ミルクを飲むのが一般の赤ちゃん。これら一連の「口の動き」を全くしてこなかったムスメは、いまだ物をくわえることも、吸いつくこともできません(と言うか、そんな動作を”知りません”)。息をふ~っと吐いたり、唇の先でストローから水を吸うなんてこともできません。つまり、口内部、口周辺の動きをほとんど知らずに育ってきているのです。

この事実が、実は発話の遅れにも大きく影響を及ぼしているのだと最近理解しました。出したい音があるのに、出せない。なぜなら、必要な筋肉が育っていないし、必要な動作を知らないから。

一番簡単と言われているP音しか出せず、最近ではちょっとイライラする姿も見られます。ムスメを見てくれている言語聴覚士さんによると、「ママ」と言う練習をしている時も、「パパ」としか言えず、ムスメなりに違う音を出そうと工夫しているようではあるけれど、上手くいかずに最後は「パパッ!!!」と声ばかり大きくなっていくそうな・・・。

うーーーーーーーーーん。

ムスメ誕生以降よ~く理解しましたが、人間の体って本当に良くできているんですよね。でも、だからこそ、一つ何かが上手くいかないと、あらゆることに影響が出てきてしまう。食べること、話すこと、全てが繋がっていたんだなぁ・・・・・・・・。

でも、ゆっくりゆっくり。

私にとっては、ムスメが口の周りを食べ物で汚しながら、もぐもぐ何かを”食べている”姿を見られるだけでも、もう奇跡みたいなこと。それだけでも今は幸せで胸がいっぱいです。こうした日々の積み重ねの先に、ムスメの発話もきっとある。

今は、こうして味の世界を知り始めたムスメに、少しずつ日本の味も教えていってあげたいなと思っています。来年の今頃には、美味しい東洋梨をシャクシャクっと食べさせてあげられるかな。