アルゼンチン暮らしIROIRO

アルゼンチン在住ライターの日々の想いイロイロ

秋の食卓

こちら南米アルゼンチンでは、5月中旬を過ぎたころから気温がぐんと下り、秋を飛び越えていきなり冬の寒さになりました。大慌てでムスメの冬服を引っ張り出したものの、ズボンもセーターもつんつるてん。この半年で6センチ(!)も身長が伸びて、大女への道まっしぐらなムスメの箪笥は空っぽで悲鳴を上げていたところ、ここ数日でようやく少し暖かさが戻り、気持ちのいい秋晴れの良いお天気となりました。

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慌ててムスメにタートルのセーターを編み始めたところ。

ものぐさな私はこの秋、シームレスの輪編みにはまっています。

肌寒さの始まる毎年この時期は、なんとなく心細い気持ちになります。冬支度がちゃんとできているかどうか不安になる、冬眠前の母熊の心境でしょうか。そして俄然食い気も出てきます(笑)。暖かいスープやシチュー、グラタンや温野菜などが無性に食べたくなって、1時間2時間とキッチンに立ち、時間のかかるお野菜の下ごしらえやシチューのルー作りが楽しくなります。暑い夏の間は何にも食べたくなくなるし、火を使った料理も辛いだけなので、こうして何時間も湯気の上がるお鍋をことことを煮立てていることに幸せを感じると、ああ冬が来たな~としみじみ思います。

お料理の話しと言えば、日本のスーパーで売られているお肉の形状と、こちらで売り場に並べられているものとでは大きく異なります。日本のものが大抵使いやすいように小さめに切られているのに対し、アルゼンチンでは何でもどーんと大ぶり。鳥もも肉は骨付きで足一本単位が普通だし、牛や豚の「薄切り」に至っては、お肉屋さんに注文してもあんなに薄くは切ってくれません。

色々な国で暮らしていて気がつきましたが、面白いことにそれは各国の料理レシピの違い(つまり需要の差)から来ているということ。否、もしかしたら、肉の形状がこうだから料理のレシピに違いが出るのかもしれません。更に突き詰めて考えていくと、それはお箸文化とフォーク&ナイフ文化という異なる形式の食卓が根底にあるように思います。

やはりお箸で食べる和食のメニューでは、「一口大」がポイント。だからお肉もお箸で取って食べやすい大きさに予め用意して売られているんですね。でも、たとえばこちらで鳥のから揚げをしたいと思ったら、骨付きの大きなかたまりで作るか(いわゆるケンタッキーです)、お肉屋さんに特別に頼んで骨を外してもらわないとなりません。フォーク&ナイフの食卓では、その場で切ればいいから、食べるものの大きさって料理の段階ではあまり気にする必要がないんですね。

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秋の定番。お野菜たっぷりスープとキッシュ。

寒くなるとオーブン料理が増えます。おうちも暖かくなって一石二鳥。

さて、我が家では鶏肉に関しては更に大きな「一羽」単位で買ってきます。首と足先だけ切り落として羽を取り除き、内臓をきれいにした状態の鳥が「一羽」単位で売られているのです。それを自宅のキッチンで「胸肉」「もも肉」「手羽」に切り分け、残った骨と骨にくっついたお肉は、お鍋で灰汁を取りながら香味野菜と一緒にことこと煮て、スープストックにします。この切り分け作業をする度に(つまり毎週)、やっぱり残酷な感じがして、もう絶対にベジタリアンになろうと思ってしまうんですが、出来上がったスープの美味しさに断念するというパターンが冬中続きます。

写真の野菜スープは、ニンニク、玉ねぎのみじん切りに、にんじん、ジャガイモ、セロリ、キャベツ、かぼちゃなどのお野菜をサイコロに切ったものと、キヌアやレンズ豆を一緒に入れて、スープにローリエ、白ワインを加えてことこと煮込んだもの。骨にくっついていたお肉も全部こそげて入れ、仕上げにイタリアンパセリやパルメザンチーズの薄切りを乗せて食べます。体が芯からあったまる秋冬の定番メニューで、インスタントのコンソメでは出せないスープの深みに、お野菜のエキスたっぷりで、家族みんなが大好きな一品(いや、私が好きだからしょっちゅう作ってるだけかも?笑)。

キッシュは、こちらでとても安く売っているアセルガというでっかい葉っぱのお野菜を使いました。アセルガの葉っぱは、かなりごわっとしたほうれん草・・・かなぁ・・・。茎は太くて平べったく、凄い繊維質で食感はセロリに似ています。私はいつも葉っぱはキッシュやオムレツ、煮浸し、スープに使い、茎は細く切ってお砂糖とお醤油で炒め、ゴマを散らしごま油をたらりと掛けたきんぴら風にします。このきんぴら、翌日、翌々日がまた味が染みて美味しいのですが、これが好きなのは幸運なことに私だけ(笑)。白いご飯を炊いて、いつも独り占めしています。

この日のキッシュはアセルガ、赤ピーマン、マッシュルーム入りで、モツァレラチーズを乗せた上にトマトとバジルをトッピングしました。アルゼンチンではこうしたキッシュやタルタと呼ばれるパイなどを作るためのパイ生地がどのスーパーでも必ず売られているので、実は準備がとっても簡単。パイ生地の上に具を敷き詰めて、生クリームを混ぜた卵液を掛けてオーブンに入れるだけなので、忙しいお昼のお助けメニューです。

さて、お肉は形状こそ異なれ、どこの国でもまあ大抵同じようなものが手に入るわけですが、お野菜はそうはいきません。やっぱり恋しくなるのは日本の根菜類や香味野菜たち。ああ、ごぼうやレンコンが食べたい。ミョウガやシソや三つ葉が懐かしい・・・。シソは栽培しては失敗するを繰り返し、未だ我が家の家庭菜園に姿はありません。三つ葉に至っては名前も思い出せなかった・・・(大好きだったのに。涙)。

食欲の秋は、3歳4ヶ月の我が家のお嬢さんにも良い影響を与えてくれているようです。これまではダーリン譲りの食の細さで、本当に量を食べない子で泣かされてきましたが、最近ご飯もおやつもしっかり食べるようになってびっくりしています。肘の関節がない(肘が曲がらない)ため自力で物を口に運ぶことができず、私達に食べさせてもらっていたことも食事を退屈にさせる原因だったのかもしれません。ここのところ、普通のコップやスプーンを使って、自分で上手に飲んだり食べたりできるようになったことも大きいのかな。

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私達にとってなんてことのない動作の一つ一つが、ムスメにとっては全て”挑戦”なんだなぁ。

そんな障害を物ともせず、工夫して乗り越えていく姿には、毎度ながら思わず家族みんなが拍手喝采です。

きちんと食べるようになって体力がついてきたからか、最近ムスメの遊び方もだいぶダイナミックになってきました。 ある日の午後、庭仕事をしていた私がふと気がつくと、玄関前には椅子がずらり・・・。その上にちょこんと座るムスメ一人。この椅子の行列、実は家の中まで続いていました!

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家の中にももう一脚ありました(右写真)。

椅子の横にはちゃっかりポコジョの乗っかったベビーカーとピンポンの乗っかったカートまで。

みんなでひなたぼっこ?

こうやって大きな物を動かしては、力持ちを誇示するムスメは、おもちゃのショッピングカートもごろごろとは押さず、両腕で持ち上げてみせては得意満面。大女&力持ちってアナタ、一体どんなキャラ??

そうかと思うと、こんな箱をがらくた部屋から引っ張り出してきては・・・かぶってる!!それを見て密かに、大好きな安部公房の『箱男』や松本太洋の『GOGOモンスター』を思い出してしまった母なのでした。あ~、久しぶりに読みたくなった・・・。

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大きさ、形状の異なる箱を、かぶる、かぶる、かぶる、、、。


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松本 大洋

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松本太洋さんの漫画なら『鉄コン筋クリート』がやっぱり最高ですが、こちらもかなりお勧めです。

秋の食卓と全然関係ない話しになっちゃいましたが、ま、読書の秋ってことで・・・。