アルゼンチン暮らしIROIRO

アルゼンチン在住ライターの日々の想いイロイロ

リラ・ダウンズと極彩色のメヒコ

前回書き忘れました。

「もう仕事を始めてバリバリ働いています」とご報告するはずだったのですが、実は以前と変わらない生活をしています。なんと仕事開始直前になってキャンセルの連絡がありまして。

 

私を採用してくれた会社は、大手IT企業から仕事の依頼を請けるたびにチームを組んで業務に当たるそうですが、今回募集を掛けていたのは某社のかなり複雑なプロジェクトに対応するためだったそうで、一日3時間しか働けない私をチームに入れるのは難しいと最終的に判断したのだそうです。しゅん。

 

捕らぬ狸の皮算用をしまくっていた愚かな私は、期待に膨れた風船をぱちんと割られてしまった気分でしばらく凹みましたが、後日、今回働き始めた英語の達者な友人に「英語は全て専門用語。ソフトウエアも新しいもので覚えるまでかなり困難」と聞かされ、社会復帰第一弾としては大変なお仕事だったかも、と思い直しました。

 

そんなわけで今までどおりの暮らしをしていますが、今回の仕事の件も含め色々と考えることの多い日々です。当初は、この一日たった3時間程度の自由時間でコンスタントにできる仕事って何だろう?と働くことばかり考えていました。でも、徐々に考えるテーマが広がり、ふと気がつくと、ムスメが生まれてからというもの、自分が好きだったものを全てどこかに仕舞い込んできてしまったことに思い至りました。

 

もしかすると、まず私が取り戻さなければならないことは、”人生を彩ってくれていた素敵なもの達”なのかもしれない・・・。

 

そう思ったことがきっかけで、ここ数日は長いこと聞かなかった音楽や自分の好きな世界に繋がるものを、ちょっとした時間を見つけては掘り起こして感動していたところ、Lila Downsのとあるミュージックビデオに出会い衝撃を受けました。私の愛するメキシコがぎゅ~っと濃縮200%で詰まっている音と映像に、思わず鳥肌が・・・!!

 

 

Lila Downsは言わずと知れたメキシコを代表する女性シンガーの一人。インディヘナ文化を大切に守るオアハカ出身らしく、メキシコの伝統音楽を巧みに取り入れながら、モダンなポップ、ロック、ジャズを独特の声で歌い上げる個性的なアーティストです。この『Zapata se queda(邦題:サパタのまま←変なタイトル)』は2011年にリリースされ、2013年にグラミー賞の最優秀リージョン・メキシカン・アルバム賞を獲得した『Pecados y Milagros(罪と奇跡)』に収録され、同アルバムからはセカンドシングルとしてリリースされています。

 

タイトルになっているZapata(サパタ)はメキシコ革命の英雄の一人とされるEmiliano Zapataのことで、現在もチアパスの貧民を中心に組織され社会活動を行っている”サパティスタ民族解放軍”の存在からも有名です。歌の内容はサパタを慕う想いを、メキシコ独特の土着宗教的なもの、メキシコ神秘主義の香りでつつんだ激烈にメキシコ色の強いもの。それはこのビデオを見てもよ~く伝わってきます。

 

サイケでエキゾチックなメキシコ極彩色アート満載ですが、明るい色合いの衣装と共に現れる死者の日の骸骨メイクや死神の姿は、メキシコ文化の根底に流れる死と隣り合わせのダークな一面も見せ、そのコントラストが正に混沌としたメキシコらしくてゾクゾクします。

 

これ、スペイン語わかる方(特にメキシコスペイン語)はとても面白いんじゃないかと思います。言い回しとかすごくメキシコちっくで、表現の仕方もドロッと暗く埃臭~い感じ。メキシコの田舎町の土煙が立つ道を、ビデオの彼らと共に歩いている気分に浸れます。

 

「それは夜中の3時のこと(省略)低い声が聞こえた/「ゆっくり歩いておいで」と(省略)/夢は「行くな」と言い/私の足は「ちょっと待て」と言う/でも気がついたら/ああ、なんてこと/私は少しずつ動きだしていた」

 

こんな歌詞で始まる歌、どうです??私、もうゾワッと毛が逆立ちまくりです(笑)。ビデオの冒頭にあたるこの部分では、人々が教会からぞろぞろと出てくる映像になっていますが、このシーン、サパタ出生の地であるモレーロスの教会で撮影されたそうです。

 

続くサビの部分では、、、

 

「パンヤノキの木陰で/一発の銃声が聞こえた/黒い鶏がバサリと落ちた/”奇跡”という名の道に/俺を想うのなら/決意を固めて/俺と一緒に行こう/戦うんだよ」

 

とあり、サパタ最後の舞台となった暗殺のイメージと、既に亡き者となったサパタの魂に呼び起こされるストーリーが語られます。う~ん。こういう「死者がすぐ傍にいる」感じ、現実と夢の境が突然失われる設定というのがまた、メキシコ人作家フアン・ルルフォの傑作『ペドロ・パラモ』を彷彿させ、メキシコのマジカルワールドの扉がギィ~っと目の前で開かれた気分になります。

 

Lila Downsの音楽もそうですが、メキシコって本当に民芸品や衣装を含む文化や風習のいずれをとっても、古代から伝わる物が現代でも斬新に見える不思議な世界を持っています。そう、私はメキシコ料理だけじゃなく(食いしんぼうなだけじゃなく)、こんな豊かなカルチャーに満ちたメヒコにぞっこんなんだった、と忘れていた情熱を久々に取り戻し興奮したのでした。ビバ・メヒコ!

 

ちなみに、これは私の大好きなアルゼンチン人シンガーソングライターのKevin JohansenとLila Downsのコラボ。どちらも声が素晴らしく魅力的なアーティストですが、この二人のデュオがまた絶妙!!!と感動したのでこれもご紹介。ビデオとしてはとても地味ですが、目を閉じて二人の声だけ聞いてもらいたい一曲。

 

 

 

・・・こんなことしてていいのかなぁ~・・・なんてちょっと思ったりもしますが、こうして好きなことのためにちょびっと時間を使えるようになったのは、ムスメも元気にしていてくれて、少し立ち止まって自分を振り返る精神的な余裕ができたからだとも言えます。なんて、ちょっと言い訳。

 

ブログへの動画のアップ方法も分かったことだし(←遅い)、また素敵な出会いがあったらおすそ分けします。