アルゼンチン暮らしIROIRO

アルゼンチン在住ライターの日々の想いイロイロ

小学校1年生の性教育

熊本地震が発生してから毎日のようにニュースを追っていて、2001年に経験したエルサルバドル大地震の眠れぬ夜を思い出しました。毎晩洋服を着たままベッドに入り、避難用のリュックを握りしめて浅い眠りについては、余震のたびに目を覚ましたものです。あの治安の悪い国で、それでも多くの人々がガレージや軒先にマットレスを出して眠っていたことも忘れられません。

この地震で、私が勤めていた国立大学の同僚教師もご家族と共に土砂崩れに遭い、命を落としました。熊本地震で被害に遭われた方々に深く哀悼を捧げると共に、1日も早い復興を心よりお祈りします。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

こちら南米でも先月16日にエクアドルでM7.8の大地震があり、600名を超える死者を出しました。なんだか世界中で異変が起きているような気がします。それは気候も然りで、ここR市では4月に3週間ほどずっと雨続きという異常事態が起きました。いわゆる雨季のないアルゼンチンで、今回のこの長雨は例を見ません。空気中の湿度があまりにも高すぎて、家中の鏡が曇りっぱなし、タイルの床も壁もビタビタに濡れてしまった日もありました。こんな自然現象を見るのは生まれて初めてのことだったので、どうしたら良いかも分からず呆然としました。

気温の上昇、気候の変動、地震。やはりもっと地球を大事にしなければならないという合図なのかな、と改めて思います。先日遂に近所のスーパーでは買い物用のビニール袋を廃止しましたが、アルゼンチンには分別ゴミの制度がないなど、改善すべきテーマがまだまだ山のようにあります。

DSCF4052_convert_20160506054420.jpg

やっと雨がやんでお外に出られたけれど、どんより曇り空。

肌寒いのに湿気が多くて公園では蚊が大量発生。これもやっぱり不気味な現象です。

・・・・・・・・・・・・・・・・

さて、いつものようにだいぶ時間が経ってしまったのですが、去る4月7日、ムスメの学校で1回目の父母会がありました。

担任のクラウディア先生から最初に話があったのは、意外にも性教育についてでした。この学校では既に昨年5歳児クラスの時点で性教育の導入が始まっていて、男女2体のお手製のお人形を生徒たちが順番に自宅に持ち帰り、「目」「鼻」「口」「髪の毛」など学校から出される指示に従って、親子で好きなようにパーツを付け加えていき、年の最後に完成させるという面白いプロジェクトを行っています。私は型紙から人形本体の布を切る作業には参加できましたが、その後は日本に行ってしまったのでパーツを加えていく過程は見ることができず、この日初めて完成体を見せてもらいました。

男の子はホセ、女の子はマルガリータという名前のこのお人形たちにはちゃんと生殖器もついていて、5歳の子供達はこのお人形を通じて体の違いなどを学んだそうです。今年はもう少し踏み込んで、男女差だけでなく個体差もあること、違いをバカにしたりからかったりするのではなく、互いに尊重して調和のある環境を作り出すことを学ぶ予定だそう。

こうした教育は、この国で非常に多く見られる性的虐待への対応策でもあります。何かされた時にしっかりNOと言えること、すぐに誰かに相談できること、子供達にはみんな知る権利と守られる権利があると知ること。更には性感染症の予防や望まぬ妊娠の防止にも繋げていくということです。法的に堕胎が禁止されている国なので、私がムスメを出産した時にも、病院には13歳や15歳の幼い”お母さん”が何人もいました。小さい頃から性教育が徹底される必要性が高いのも頷けます。

DSCF3968_convert_20160506053758.jpg     DSCF3973_convert_20160506054021.jpg

4月のとある土曜日、お誕生会が2つもあって、昼も夜も遊び倒したヒト。

DSCF3981_convert_20160506054143.jpg           DSCF3992_convert_20160506054317.jpg     

さすがに夜のお誕生会では後半ぐったりしていましたけど(笑)。

父母会には教頭先生も参加していて、”Desprincesacion(脱お姫様)”という活動についてもお話しがありました。曰く、こちらの国では女の子達のお姫様好きが半端ではなくて、例えば汚れるような遊びはしたくないとか、男の子が使うようなオモチャは嫌がるとか、ピンクや赤じゃないと使いたがらない色差別の現象が幼い頃から顕著に見られるそう。また、ディズニー映画の影響から、”王子様”と”結婚すれば”幸せになれる、というような刷り込みも強く、それは決して放置しておいて良い価値観ではないという認識があるようです。

そもそもラ米社会では幼い頃から性差が顕著です。生まれた時に女の子にはピアスをさせる習慣があるし、3、4歳にもなるとマニキュアを塗って幼稚園に通う女児もたくさんいます。女の子用の衣料品はすべからくピンクか赤で、オレンジや黄緑を探すのは難しく、シックな色合いとなるとほとんど見つかりません。自分の子供時代を考えると、日本の小学生ってもっとずっと中性的なイメージがあって、当初はこうした現象に慣れずに戸惑うこともありました。

また元来、ラ米社会には「マチスモ」が根強くはびこっていると言われます。「マチスモ」を大雑把に表現すると「男尊女卑」に近いと言えるでしょうか。男はこうあるべき、女はこうあるべきという概念が未だ強く、そうした家庭内のしつけから、例えば休み時間中も女の子はあまり場所を取らないようはじの方にじっと座って動かず、男の子だけが我が物顔で校庭を駆け回り独占して使う、というような”不公平な”現象も見られるのだそう。こうした古典的な概念からの脱却を学校としては目指しているというようなお話でした。

ここまで聞いてようやく理解しましたが、これは単なる”性教育”ではなく、いわゆるジェンダーフリー教育なんですね。クラスのお母さん達に聞いたところ、ムスメの学校はかなりリベラルだそうで、実際には学校ごとで方針は様々とのことですが、性差の激しい社会だからこそこうした教育が低学年から導入されているのは間違いなさそうです。

私個人としては、男女の「らしさ」を頭から否定するのではなく、個々の個性や男女の性差を尊重した上で、多様な価値観を認めることが大切ではないかなと先生方の話を聞いていて思いました。そうした認識のもと、それぞれの子供達が自らの意思で己の道を自由に選択できる社会になると理想的かな、と。アルゼンチンにはフェミニストがとても多いと常々感じてきたので、逆に言えば、最終的に「私はお姫様になりたいのよ」という選択肢もまた尊重されるべきだろうと思いました。

父母会では色んなお母さんから面白いコメントが出ました。例えばこの先、お人形のホセもマルガリータももしかすると自分の性別を変えたいと思うこともあるかもしれないとか、ある時全身にタトゥーを入れてくるかもね、とか。そんな意見に対して皆んなで笑ったりうなずいたりしているのを見て、ああ、アルゼンチンだな〜としみじみ思いました。こんなコメントもこんなリアクションも、きっと日本の小学校1年生の父母会では見られないだろうと思うので、、、。この2体のお人形は子供達が小学校を卒業するまで一緒に成長していく予定なので、今後の彼らの変化がとても楽しみです。

先ほども書いた通り、教育方針も考え方もアルゼンチンの中でも色々とあるでしょうが、この国が様々な国から移民を受け入れてきた歴史から、他のラ米諸国と比べても”多様さ”に対してかなり寛容な国であるのは間違いないと思います。歴史的にはもちろんのこと、今もなお差別がないとは言えませんが、”違い”を尊重する、もしくは尊重しようと努めるこの社会では、例えば公務員や銀行員が鼻ピアスをしていたり、モヒカンだったり、タトゥーが入っていたりするのも普通に見かけます。日本だったら絶対にあり得ない風景に最初はびっくりしましたが、それもまた多様性を許容するという姿勢の延長線上にあるのだろうと思うようになりました。

私にはこの社会のあり方が、どこか風穴があいているようで息がしやすい。自分自身でいられることは自己肯定感に繋がっていく大事なことだと思うし、外国人である私も、障害児であるムスメも、違いをあまり意識させられずに受け入れられていると心から感じます。入学当時から常に言われてきたこの学校のポリシー、「みんな違っていて当たり前。みんなちがっていて良い。みんな違うけど公平に扱おう」という言葉に、子供の頃から窮屈な校則やしきたりが苦手だった私は救いを感じています。

DSCF4058_convert_20160506054520.jpg     DSCF4067_convert_20160506054822.jpg

                                                         DSCF4084_convert_20160506054926.jpg

こちらでは5月1日のメーデーは大切な日で、学校でも行事がありました。

1年生は働き者のアリさんに扮して参加。子供が仮装する機会がとても多いので、親は準備が大変です。

13102675_10208328310519860_1335765945691588331_n_convert_20160506053631.jpg DSCF4103_convert_20160506055025.jpg 13087760_10208328310759866_7226194700640250505_n_convert_20160506053711.jpg

でもこんな可愛らしい晴れ舞台を見ると報われます(笑)。

神妙な顔して列の最後尾に付いて行ってたくせに、突然一人立ち上がって私に手を振ったりして大笑いでした。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

ピカピカの1年生の最初の父母会から性教育の話でちょっと面食らいましたが、突き詰めていくともっと広いテーマに繋がっていき、考えさせられることがとても多かった。日本で子育てをしたことがないので分からないのですが、現代日本の小学校1年生、そして性教育ってどんなものなのでしょう?興味深々の今日この頃です。

DSCF4017_convert_20160506060939.jpg

おまけ:長雨で庭のカラーが復活しつつあります。お帰りなさい。